ITの楽園、シリコンバレーの未来はユートピアかディストピアか

最近アメリカのサンフランシスコ、シリコンバレー界隈がすごいことになっているという話をよく耳にしますよね。

シリコンバレーはこれまでも何度かバブルを繰り返してきた地域で、「今回の勢いもバブルでしょ?」という冷めた見方をしている人も多いかもしれません。

しかし、スマホの登場で加速した「今回のバブル」は、従来の「半導体バブル」、「ドットコムバブル」とは規模が違っており、もはや単なるバブルでは片付けられない規模に膨らんできています。

そんなバブル真っ只中のシリコンバレーには巨額の富が集まってきている一方で、ホームレスの急増という闇の部分も抱えています。

今回は「シリコンバレーの未来はユートピアかディストピアか」ということを考えていきましょう。

ITの楽園、シリコンバレーの未来はユートピアかディストピアか

金と人が集まるシリコンバレー

2017年より、アップル製作のオリジナル番組、「Planet of the Apps – アプリケーションの世界」の配信がApple Musicにて始まりました。

番組の内容は、成功を夢見るスタートアップ企業たちが自社アプリのプレゼンを行い、ベンチャーキャピタリストから投資を受けることを目指すドキュメンタリーです。

日本でいう「マネーの虎」のような番組なのですが、驚くべきはその投資される額です。数十万ドル(数千万円)はもはや当然で、多いときは100〜500万ドル(1〜5億円以上)のお金がポンっとスタートアップ企業に投資されます。

もちろん、このような巨額投資は番組の演出ではなく、実際のシリコンバレーで日常的に動いている額です。

このように、9割が失敗すると言われているスタートアップ企業に対する投資活動が非常に活発で、また、その活発さゆえに世界中から優秀な人材が成功を夢見て集まってきています。シリコンバレーのお膝元、スタンフォード大学の学生たちはこぞって起業家を目指しますし、インド最高峰の工科大学であるIITを卒業した若者たちもこぞってシリコンバレーにやってきます。

このように、シリコンバレーには金と人が集まり、新興企業がバンバン誕生するという好循環が生まれています。「でも9割は失敗するんでしょ?」と冷めた見方をする人もいますが、実際に失敗してもそこでゲームオーバーではなく企業からオファーがかかったり、再度起業する人も大勢います。

そもそもシリコンバレーのエンジニアは慢性的に供給不足なので常に引く手数多のようです。このように、シリコンバレーにおいては起業に失敗することは失敗ではなく、むしろ挑戦しないことが失敗であるというカルチャーができあがっているようです。

増え続けるシリコンバレーのホームレス


そんなシリコンバレー界隈の平均年収(中央値)は1,000万円を超えると言われていて、まさにシリコンバレーはアメリカンドリームの賜物であり、夢を求めて世界中の優秀な若者が集まるこの地はユートピアにさえ思えてきます。

そんな一方で、シリコンバレーで急増しているのがホームレスです。サンフランシスコでも、すこし街の外れにいくとホームレスたちが路上でテントを張って生活していて、車上荒らしも多発しているようです。

また、グーグルやスタンフォード大学の近郊を走る夜行バスにはホームレスたちが押し寄せ、ホテル代わりにしているという話もあります。なぜここまでホームレスが急増しているのかという理由ですが、その1つには家賃の急騰があります。

ほんの10〜20年前までサンフランシスコでふつうに働いて暮らしていた人たちが、急騰する家賃を払えなくなって家を追い出されるケースが後を絶たないようです。

中にはわずか10年で家賃が1.5倍以上に跳ね上がった地域もあるとのことです。家賃が急騰している理由はもちろん、IT系の富裕層が移り住んできたからです。サンフランシスコはもともと土地が狭いことと、市の決まりで新築を立てにくいことが関連し、不動産屋もIT系の金持ちを相手に商売をするようになります。

また、サンフランシスコ市やシリコンバレー界隈の群は、慢性的な財政不足で、道路もボコボコの状態です。そのため、問題を把握していながらも、低所得者を救済するためのセーフネットを用意しきれずにいます。

まさにシリコンバレーでは、IT系の人間はどんどん金持ちになり、従来の労働者はどんどん貧しくなるという格差が拡大し、一種のディストピアと化しているのです。

シリコンバレーの成長は続くのか

このように急成長を続けているシリコンバレーがこの先どうなっていくのかは誰にも分かりません。

このまま成長が拡大し、将来はSF映画のようなハイテクな未来都市になっていくのでしょうか。それともシリコンバレーの成長は今がピークで、「スマホバブル」の崩壊とともに再び失速するのでしょうか。 2020年には、世界の8割以上の人がスマートフォンを所持するようになると言われており、おそらくそれまでの間は、今のバブルが続くことになると思います。

しかしその後はどうなるでしょうか。スマートフォンがすっかりコモディティ化して、ユーザーがスマホに飽きてしまったら?アマゾンやグーグルのような超大手のサービスはもちろん引き続き使われ続けると思いますが、あとはめんどくさくなって既存のサービスに満足してしまうようになるかもしれません。

日本でも一時期スマホゲームが爆発的にヒットし、電車の中では誰もが遊んでいましたが、今ではその熱も落ち着いてきています。このように、今シリコンバレーで起きている「スマホバブル」は、今後数年の内に崩壊する可能性があります。その一方で、スマホの次のプラットホームとして「AIアシスタント」が注目を集め始めています。

これはアマゾンの「アレクサ (Alexa)」に代表されるもので、スマホアプリのように様々なカスタムスキルをインストールして楽しむことができます。アレクサはスマホと違ってハンズフリーで操作できるため、スマホでは実現できなかった新たな市場が開拓されることに期待されているのです。

このようにポジティブな見方をすれば、シリコンバレーにはまだまだ成長の余地があるのかもしれません。

シリコンバレーの未来はユートピアかディストピアか

シリコンバレーが今後も成長すると仮定して、ホームレスや低所得者の問題はどうなるのでしょうか。今米国では、学も技術もない人たちは主に運転手をして生計を立てています。

今はウーバー(Uber)やリフト(Lyft)などの配車サービスがとても流行っているので、彼らは職にあぶれることもありません。しかし、もし数年〜数十年後に自動運転が実現すればどうなるでしょうか。実際にウーバーは既に自動運転の実験を始めており、将来無人タクシーを実用化する気が満々です。もし実現すれば、全米のタクシー運転手は職を失い、最悪の場合、家賃を払えなくなってホームレスになる可能性があります。

もはやシリコンバレーのホームレス問題は、全米の、いや、全世界の問題として拡大するのかもしれません。そうやって世界中で失業者が増えるのを横目に、自動運転技術を手がけるウーバーやグーグルはますます金持ちになっていきます。さらに、今後テクノロジーによって失業者が出るのは運転手だけではないでしょう。

AIやロボットの導入で無人化が進んでいけば、マクドナルドなどの飲食店で働いていた人たちも失業することになっていきます(実際にマクドでは無人レジ、無人オーダーの導入が進んでいる)。おそらくシリコンバレーの未来の姿は、華やかなテクノロジーの都となり、IT系の金持ちにとってユートピアとなるでしょう。そしてそれと同時に、数多くの失業者を世界中に生み出し、混乱に導いていくのかもしれません。

シリコンバレーの家賃はますます高騰し、これまで中流階級だった人たちも住むところを失っていくかもしれません。庶民にとっては、シリコンバレーはディストピアになっていくのでしょうか。

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最後に

今回は「シリコンバレーの未来はユートピアかディストピアか」ということについて見ていきました。このようなテクノロジーの進化は、好き嫌いに限らずに、決して避けることができずにやってくる未来です。また、シリコンバレーに限った話ではなく、近い将来、私たちの暮らす日本にもテック失業の波は必ずやってくるでしょう。いくら日本人が「AI反対!」、「自動運転反対!」と叫んでも、問答無用で海の向こうからやってくるのです。もちろん、中国のようにシリコンバレーの企業をシャットアウトするのも一つの手かもしれませんが、それが本当に正しいやり方かどうかは分かりません。私たちが生き残る術の1つは、ITスキルを習得し、ユートピアの側に行くことなのかもしれません。