アップルが「H.265」を標準サポートしない理由とは
H.265といえば次世代の動画コーデックとして注目されている規格で、従来のH.264に比べて容量を半分に抑えることのできる画期的なものです。すでにネットフリックスやUltra HD Blu-rayなどに採用されて、4K画質をサポートする規格として普及しつつあります。
ところが業界のイノベーターであるアップルさんはH.265を一切採用していません。厳密にいえばFaceTimeに用いられる通信に使われていますが、iPhoneやiPad、もちろんMacにおいてH.265の動画を再生することはいまだにできないのです。これには一体どういう理由があるのか見ていきましょう。
※追記: WWDC’17にて、アップルがH.265をサポートすることを発表しました。詳しくはこちら(アップル、MacとiOS端末の「H.265対応」を発表!遂に標準サポートへ)
アップルがH.265を採用しない理由
ユーザーの混乱をまねく
一つはユーザーの混乱をまねくのを防ぐためだと考えられます。現状ではH.264の動画はほとんど全てのスマートフォン、タブレット、PCで再生できるほどに普及しています。まさに動画版のJPEGとも呼べる普及率です。しかし新たにH.265を導入するとどうなるでしょうか。例えば最新機種ではH.265を再生できるが、旧機種ではできないといったトラブルが発生することは間逃れません。一般ユーザーは動画ファイルのコーデックなんて意識せずに使っていますので、ある日突然友達に送った動画が再生できないと言われれば困ったことになるでしょう。そのため無理にH.265を採用して混乱をまねくよりも、確実に普及しているH.264を用いる方が賢明である。これが一つの理由ではないでしょうか。
JPEG2000のトラウマ
かつてJPEG2000という規格がありました(今もありますが)。これは従来のJPEGよりもはるかに圧縮効率を高めた上位規格で、アップルは当時(2000年頃)真っ先にJPEG2000に全面対応させました。ところがこのJPEG2000というのが全くもって普及せず、アップルの努力も無駄に終わってしまったのです。普及しなかった理由は、当時ストレージの大容量化と通信速度の高速化が一気に進んだので、無理に画像を圧縮する必要がなくなったからでした。
まとめ
JPEG2000の件もそうですが、昨今スマホの大容量化とWi-Fi・4Gの高速化が進んでいるので、動画ファイルを無理に圧縮する必要がなくなりつつあります。H.264で4K動画を撮影すると容量が大きくなりますが、ストレージの容量が増えたので気にならなくなってきています。最近のスマホは128GB、256GBが主流なので、むしろ空き容量を持て余している人も多いのはないでしょうか。加えてアマゾンのAmazon Drive Unlimitedのように無制限で使い放題のクラウドストレージサービスも出てきています。このような無制限ストレージがこれから増えるとするならば、どんなにデータの容量が大きくてもノープログラムです。これらを考慮するとむしろH.265なんて必要ないともいえます。アップルがH.265を採用しないのは、将来を見据えた戦略なのではないでしょうか。